2000年代
『告白』湊 かなえ〔2008〕
イヤミスとは読後に「嫌な気分」になるミステリー小説のこと。そんなイヤミスの女王との異名を持つ湊さんのデビュー作にして、本屋大賞受賞作品。
女性教師の死んだ娘のことについてクラスの生徒に殺されたという独白から始まる物語。賞ごとに語り手の視点を変えながら事件の真相に迫る傑作です。
『ラットマン』道尾 秀介〔2008〕
道尾さんの数ある名作の中からなぜこれを選んだか。ロックが好きだからということもあるけど、ひとえに面白いから。
エアロスミスのカヴァーをしているアマチュアロックバンド内で起こるバンド内恋愛と事件をめぐるストーリー。
どんでんがえしにつぐ大どんでんがえしで、人の思い込みをうまくつき、だまされること必至。
『警官の血』佐々木 譲〔2007〕
戦後間もなくから現代まで、親子三代にわたる警官の物語を描いた大河ミステリーです。
東京・谷中の駐在所勤務ながら、公安や左翼の影がちらつく未解決の事件を独自に追う父清二。
そしてその真相を引き継ぐ息子の民雄。その息子の和也。
その事件と並行して民雄は過激派に潜入捜査したり、和也は内偵捜査したりと警察の善悪に揺れ動く様を骨太に描いています。警察小説の金字塔ともいえる傑作です。
『ゴールデンスランバー』伊坂 幸太郎〔2007〕
伊坂幸太郎さんの本屋大賞を受賞した超ド級のエンタメミステリー。
総理暗殺の濡れ衣を着せられた主人公の逃亡劇。前半から張り巡らされた伏線をきれいに回収していくラストは見事の一言。
『サクリファイス』近藤 史恵〔2007〕
テーマがプロの自転車レースという、およそミステリーとは無縁に思える題材なんだけど、しっかり謎が待っています。
自転車レースのことを知らなくても、読み終わったころにはだいぶ知識がついて興味が湧いてきます。
コンパクトな作品ながら大どんでん返しが待っている極上のミステリー。
『八日目の蝉』角田 光代〔2007〕
生後まもない子を誘拐し、逃亡しながら育てるという物語を一章は誘拐した女の視点から、二章は誘拐された子の視点から描いています。
時代背景を絡めて必死に逃亡する軌跡や、なぜ誘拐されなければいけなかったのかその真相に引き込まれます。
どんな事情があったにせよ、その子の本来ありえた人生を思うとまったく共感はできませんが、犯罪に手を染めるのに理屈を超えてしまうということは多少は理解できます。
著者の代表作にして、心を揺さぶられるサスペンスドラマの傑作です。
『首無の如き祟るもの』三津田 信三〔2007〕
なぜ首が切られなければいけなかったかをめぐるトリックが目新しい
流浪の幻想小説家を語り手とした「刀城言耶」シリーズの第三弾。
怨霊の祟りの伝説もある奥多摩の媛首村では代々秘守一族が治めてきたが、双子の長寿郎と妃女子兄弟が13歳になった時に媛首山で行われた「十三夜参り」という儀式で妃女子が首無し死体で発見されます。
その事件から10年後、成人した長寿郎が三人の花嫁を選ぶ「婚舎の集い」でまたも首無し死体が発見されます。
山は多重密室状態で、なぜ首を切られなければならなかったのか謎が謎を呼びます。
ホラーと本格ミステリーがうまく融合し、怨念が信じられている村ならではのトリックと畳みかけるようなどんでん返しの連続で、「首無し死体」トリックの新たな発見を楽しめます。
『最後のトリック』深水 黎一郎〔2007 ※初出は『ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ!』〕
出尽くしたかに見える本格ミステリーのトリックでいまだ世に出ていないもの、それが読んでいる我々読者が犯人であるというものです(作中の読者が犯人というものはかつてあったようですが)。果たしてそんなトリックがあり得るのでしょうか。
そんなトリックがあるから2億円で買ってほしいと小説家のもとに手紙が届きます。果たして詐欺か、それともそれとも本当かとい半信半疑で読み進める手が止まらない作品です。
読み終わった後、我々が犯人となっているのか、それともこの小説そのものが詐欺かは読んでみてのお楽しみ。
納得できるかどうかも読者次第でしょうか。
『隠蔽捜査』今野 敏 〔2006〕
キャリア官僚が主人公の型破りな警察小説
警察庁長官官房総務課長を務めるキャリア官僚の竜崎伸也は職場でも家庭でも変人扱いされる主人公。
都内で起きた連続殺害事件は警察組織を揺るがしかねない事案と知った竜崎は幼馴染で刑事部長を務める伊丹と捜査方針を巡って葛藤します。
一方で竜崎の身内にも問題が起こり、判断を迫られていきます。
組織の危機管理とエリート官僚としてどう生きるかを問う作品で、変人なのは竜崎なのか、その周りなのかが読み始めと終わりで印象が一変するキャリア官僚を主人公とした今までになかったようなシリーズの警察小説の傑作です。
『容疑者Xの献身』東野 圭吾〔2005〕
直木賞を受賞した、東野さんの最高傑作ではないでしょうか。
不慮で殺人を犯してしまった妻子の身代わりのために、隣のアパートに住む数学教師が頭脳を駆使して犯罪を隠蔽するのですが、その隠された秘密にラスト号泣がとまりません。
『扉は閉ざされたまま』石持 浅海 〔2005〕
大学時代に元軽音楽部に所属していた6人とそのうちの一人の妹・碓氷優佳の7人で同窓会が開かれることに。その開催場所はメンバー内の兄が経営する成城の閑静な住宅街に位置する一軒家を改築した高級ペンションだ。
そこでリーダーの伏見は、そのペンションの部屋の特性を活かして後輩の新山を自殺に見せかけ、密室殺人に仕立てあげます。
完璧に仕立てたつもりだったが、その異変に碓氷優佳だけが疑問を抱き、徐々に追い詰めていきます。
初めから犯人が明かされるいわゆる“倒叙モノ”ミステリーですが、この作品で面白いのが、死体が部屋に閉じ込められていて、生きているのか死んでいるのか、自殺か他殺かそのものがわからないという状態を推理していきます。そして犯人にはその犯行が明るみに出るのを少しでも先延ばししたいという思惑もあります。
そんなスリリングな仲間うちだけによる駆け引きが展開します。
動機の部分が多少ひっかかりますが、“倒叙モノ”の面白さを堪能できる『碓氷優佳シリーズ』の1作目です。
1990年代
『最悪』奥田 英朗〔1999〕
下請けとして忙しく働く町工場の社長とパチンコに明け暮れるチンピラ、女性銀行員の3人を並行に描いた、いわゆる群像劇の作品で、それぞれにどんどん問題がちり積もっていきます。
映画『パルプ・フィクション』や『マグノリア』、『アモーレス・ペロス』など群像劇の傑作を思わせるような映像が目に浮かぶ目まぐるしい展開で、状況がどんどん悪くなっていき、まさに最悪な状況に陥っていくさまが読んでいて息苦しくなっていくほど。
次作『邪魔』と並び、一気読み必至のエンタメ小説の大傑作です。
『ハサミ男』殊能将之〔1999〕
若い少女が殺害後ハサミを首に突き立てるというサイコ的な殺人事件が連続していて、通称「ハサミ男」と世間を賑わせていました。
冒頭から犯人と思われる「わたし」という一人称で語られていて、「わたし」は3人目のターゲットを物色していました。
しかし、「わたし」が狙っていたその少女は何者かによって同じ手口で殺害されてしまいます。
「わたし」は事件の真相を探ろうとし、警察も犯罪心理分析官を先頭に事件を追います。
犯人の叙述トリックだと警戒しながら読んでも、見事な構成で騙されてしまう傑作です。
『クリムゾンの迷宮』貴志 祐介〔1999〕
目を覚ますと現実とは思えないような奇岩が連なる世界に。
ここはどこで、誰に連れられ、何のためにここにいるのか? 自分の意思とは無関係に巻き込まれたゲームから無事生きて抜け出すことはできるのか。そして、この仕組まれた謎の真相とは。
結末にも関係する、“人は生きていく上で、常に物語を求める。”という点は真理。
ホラーや都市伝説的な部分も現実的にしっかりと裏付けられた、人間の欲望や狂気を描かせたら天下一品の著者初期の傑作です。
『陰の季節』横山 秀夫〔1998〕
横山秀夫さんの人気「D県警シリーズ」第1弾です。
普通の警察小説といえば、捜査1課とか公安とかいわゆる殺人がらみの部署が普通だけど、この小説の主役は警察内勤の警官。
殺人などではなく警察内部の人間や謎を調べるちょっと変わった短編集です。
『絡新婦の理』京極 夏彦〔1996〕
「百鬼夜行」シリーズの第5長編、というより大大長編です。
まず、その分厚さもさることながら、数々の無関係にも思えるような独立した事件が蜘蛛の巣のごとくつながっていく、常識では絶対解けない謎が楽しめます。
ただし、「百鬼夜行」シリーズ第1作から順に読むのがやはりおすすめです。
『夏と花火と私の死体』乙一〔1996〕
乙一さんがなんと16歳で書き上げたデビュー作。
ミステリーでもあり、ホラーでもあり。
殺人を犯してしまった兄妹と殺されてしまった9歳の少女の死体をめぐるハラハラドキドキのストーリーです。
『七回死んだ男』西澤 保彦〔1995〕
同じ日を何度も繰り返してしまう、というSFにはよくありがちな設定ですが、この作品はその中でもとくに秀逸。
繰り返される殺人事件に状況を変えるべく試行錯誤していくという、SFとミステリーを見事に融合した作品です。
『慟哭』貫井 徳郎〔1993〕
幼女連続殺人事件に新興宗教を絡めたストーリー。
これ以上は何も知らずに読んでいただきたい、著者のデビュー作にして傑作です。
『夏と冬の奏鳴曲』麻耶 雄嵩 〔1993〕
20年前、たった1作の映画に出演した女優・真谷和音と彼女の魅力に取り憑かれた6人の若者は孤島を和音島と名づけ共同生活していました。
その1年後に彼女の転落事故によって解散していたものの、20年ぶりにみんなで集まることになります。
それを取材するために雑誌記者の如月烏有とアシスタントの高校生、舞奈桐璃もいっしょに島に乗り込みます。
やがて、真夏に雪が降り積もるという奇跡が起き、首を切られた死体が密室状態で発見されたことを皮切りに惨劇が繰り広げられていきます。
いわゆる「問題作」と言われる作品を描き続けている麻耶 雄嵩さんの第二作目。
本格ミステリにおいて奇書、問題作といわれる作品がいくつかありますが、この作品も間違いなくその部類に入ります。
キュビスム理論やソナタ形式など美術や音楽理論を推理小説と同調させた内容は実験的で、読者を混乱に陥れますが、これもまた一筋縄ではいかない本格ミステリの面白さと言えるでしょう。
『ガダラの豚』中島 らも〔1993〕
中島らもさんの作品の中でも特に人気の高い傑作で、3部から構成された作品です。
主人公はアフリカ呪術を研究していて、テレビにも出演するタレント教授。
1部ではその妻が新興宗教にのめりこみ、そこから救出を企てるという、エンタメミステリーです。
しかし、この作品はそれだけでは終わらず、2部ではアフリカへ、3部では賛否のわかれるとんでもない決着となっていきますが、面白さは間違いなしです。
『火車』宮部 みゆき〔1992〕
宮部さんの数多くある中で傑作というだけでなく、全ミステリーの中でも最高の部類に位置する傑作中の傑作。最も心が震えたのが本作です。
破産による他人になりすましがモチーフとなっている作品ですが、犯人の存在は最後までなかなか見えないので、いろいろ想像してしまう切ない物語です。
『双頭の悪魔』有栖川 有栖〔1992〕
著者と同姓同名の大学生アリスが登場する“学生アリスシリーズ”とも“江神二郎シリーズ”とも呼ばれる3作目の作品です。
四国の山奥にある芸術家たちが集まる村に行ったまま帰ってこない大学生のマリア。そのマリアも在籍する英都大学推理研のメンバーは、マリアの親から様子を見に行くように頼まれます。謎に包まれた村からマリアはなぜ帰らないのか?
マリアとアリスの視点から描かれる、大雨で分断された二つの村でおこる殺人事件の謎を、部長の江神二郎が真相究明に挑みます。
シリーズの前作から読んでいればよりマリアがなぜトラウマを抱えているかなどわかりますが、この作品から読んでもまったく問題なく独立して楽しめます。約700ページ近いボリュームのあるクローズドサークルものの大傑作です。
『殺戮にいたる病』我孫子 武丸〔1992〕
東京の繁華街で次々と起こる猟奇的な連続殺人事件。
真実の愛を求めて凶行を重ねる蒲生稔、自分の息子が殺人鬼ではないかと心配する雅子、元警察官で自分のかかわりのある人が殺された元刑事の三者の視点からストーリーは展開します。
宮崎勤事件の余波を受けながら、あまりにグロく凄惨な犯行は読む人を選ぶかもしれませんが、叙述トリックが好きな方は代名詞とも言える作品なので必読と言えます。
『毒猿 新宿鮫 II』大沢 在昌〔1991〕
新宿鮫は今なお続くシリーズ作品で、新宿署の鮫島警部はくらいついたら離さない一匹狼のはぐれ刑事です。
この二作目は、その主人公がある意味脇役的な役割を演じていて、新宿を舞台に、台湾のマフィアのボスとそれに復讐するためにやってきた殺し屋、その殺し屋を捕まえようとする台湾の刑事、殺し屋を助ける女と、さまざまな人間ドラマが展開します。
もちろん一作目から読むのがおすすめですが、これから読んでも大丈夫。
著者いわく、ターミネーターやエイリアンの一作目と二作目の関係性を参考にしたということで、確かにいわれてみるとその感じに納得の内容です。
『砂のクロニクル 上・下』船戸 与一〔1991〕
中東を舞台にハードボイルドタッチで描いたスケールの大きい大作
クロニクルとは年代記という意味。砂、つまりイスラム圏の中東には西暦とは別の時が流れています。
イスラム(イラン)革命後、腐敗していく革命防衛隊の内部抗争と独立をかけて戦うクルド民族、そしてその戦いの鍵を握る謎に包まれた男と武器商人の二人の日本人。
両陣営それぞれを章ごとに場面を変えて丁寧に描かれていて、自分の信じる信念や信仰も、立場が変われば悪にも正義にもなってしまうという事実に感情を揺さぶられます。
正史の裏側に潜む、もう一つの真実が圧倒的な筆致で描かれていて、登場人物の面々がまさに砂上の楼閣のごとく歴史に飲み込まれていくように悲しい末路を辿っていくさまを、著者が現地に赴き、徹底した取材によって裏付けられた骨太なストーリーで楽しめます。
1980年代
『クラインの壷』岡嶋 二人〔1989〕
岡嶋二人さんのラスト長編小説にして大傑作。
ゲーム制作の実験台のために仮想現実世界に入り込んだ主人公たちが、現実と仮想がわからなくなっていくという今読んでもまったく古びていない作品です。
『奇想、天を動かす』島田 荘司〔1989〕
新本格ミステリーの祖、島田さんの「御手洗潔(みたらいきよし)シリーズ」と双璧をなす「吉敷竹史(よしきたけし)シリーズ」の特に人気の高い作品です。
列車の中でピエロの格好をした人が踊り回り、その後、密室のトイレの中でピストル自殺を遂げたものの、その死体を発見した車掌が、一度扉を閉め、30秒ほど後にまた開けたら、その死体が消えているという衝撃の冒頭から幕を開け、その後もファンタジーかと思うような謎の連続。
社会派の側面も兼ね備えた本格ミステリーの傑作です。
『竜の柩』高橋 克彦〔1989〕
竜の謎に迫る、読まないともったいない伝奇SFミステリーの金字塔!
歴史小説からホラー、伝奇SFまで幅広い作風で知られる高橋克彦さんの作品の中でも最も読んでほしい作品がこの竜の柩です。
主人公たちは番組制作グループで、龍神伝説にまつわる謎を日本各地に探しに求めていきます。
しかし、その調査を阻む謎の組織が立ちはだかりますが、果たして竜にまつわる謎とはいったいなんなのか。
この作品の竜にまつわる事実を目の当たりにしていくとあたかも本当にそうなのではないかという気にさせられますし、この作品は3部作なのですが、最終的にはとんでもないところまで連れて行ってくれる、こんな面白いものを読まないともったいないレベルの作品です。
『倒錯のロンド』折原 一〔1989〕
推理新人賞に応募しようとする男と、あるきっかけからその原稿を手に入れた男の視点から描いた叙述トリックの名作です。
原稿をめぐって倒錯と盗作が複雑に入り組み、あっと驚く結末が待っています。
実際に江戸川乱歩賞に応募された作品で、惜しくも受賞を逃したもののその後の著者の活躍ぶりがこの作品の面白さを証明しています。叙述トリックの作品を多数執筆している名手による初期の代表作。
『密閉教室』法月 綸太郎〔1988〕
それぞれの生徒が抱える秘密や学校に隠された謎、徐々に明らかになっていく驚愕の真相とは?
密室の教室で生徒が一人死んでいた。しかもその教室にあった48組の机と椅子も消えていた。遺書もあったが、自殺か他殺か。同級生で推理小説マニアの高校生が警部に協力して推理に挑んでいきます。
見出しが細かく分かれているのも読みやすく、紙の上での事件と現実は違うということを揶揄しながら、いかにもな推理合戦を展開していくのも面白いです。新本格ミステリーを代表する一人でもある著者の記念すべきデビュー作。
『十角館の殺人』綾辻 行人〔1987〕
綾辻さんの記念すべき「館」シリーズの第1作目。何はなくともこれを読まなけれな始まりませんね。
無人島に浮かぶ館を訪れた大学推理小説研究会のメンバーが一人、また一人と殺害されていくという典型的なストーリーながら、想像をくつがえす犯人にきっと驚くと思います。
『後鳥羽伝説殺人事件』内田 康夫 〔1985〕
内田康夫さんのデビューから第三作目にして、シリーズ累計発行部数1億部を超える名探偵「浅見光彦」シリーズの記念すべき第一作目の作品です。
広島県の国鉄三次駅構内の跨線橋で、女性が絞殺死体となって発見されます。
彼女は記憶が失われていて、記憶を取り戻すために8年前に卒業論文の執筆のため、後鳥羽法皇が隠岐に流された道順を追って旅したこの地を訪れ、古書店で自分の記憶に関わる本を手に入れていました。
事件の謎を解く鍵は8年前の土砂崩れによる事故で、その事故で浅見光彦の妹の裕子が亡くなっていました。
野上刑事による捜査は難航している中で、身内に警視総監の兄を持つルポライター・浅見光彦が捜査に協力します。
歴史と旅情も楽しめ、意外な犯人をつきとめる浅見光彦の名推理を堪能できます。
『戻り川心中』連城三紀彦〔1980〕
どんでん返しの名手の著者の作品の中でも特に人気の高い、大正時代を舞台とした花にまつわる傑作短編集です。
作品の特徴として、犯人に驚かされるのは当たり前ですが、より驚かされるのはその動機の方にあります。
それぞれまったく異なる題材で、短編なのに深みがあり読み応え十分です。
連城ミステリの醍醐味にハマってほしい傑作です。
1970年代
『大誘拐』天藤 真〔1978〕
週刊文春『ミステリーベスト10』の20世紀国内部門第1位を獲得している本作品。
出所したばかりの3人組がお金欲しさに大勝負をかけたのが、和歌山の山林王と呼ばれる老夫人の誘拐です。
身代金の希望は5千万でしたが、それを不服としたのが、なんと誘拐された老婦人の方で、要求したのはなんと100億円。
潜伏先から金の受け渡し方法まで、次々としきっていき、いつのまにかリーダーとなりテレビ中継まで巻き込んだ劇場型誘拐事件へと発展していくその結末とは。
『三毛猫ホームズの推理』赤川 次郎 〔1978〕
驚きのトリックと名探偵が三毛猫という画期的なシリーズの第一作目
老若男女に親しまれ、生涯執筆作品が2015年で580作を突破したというミステリー界の巨匠、赤川次郎さんの数多くあるシリーズの中でも人気の高いシリーズが「三毛猫ホームズシリーズ」で、こちらはその第一作目です。
羽衣女子大学で売春による殺人事件が発生し、文学部長・森崎から捜査を依頼され、ダメ刑事・片山は森崎と飼い猫のホームズに出迎えられます。
大学に潜入し捜査を進める中、組織的な売春、大学の汚職など次々と謎が浮かび上がってきて、やがて森崎も密室の中で殺害されてしまい、片山はホームズを引き取ることになります。
ユーモアがありながらもベースにしっかりとしたトリックが用意されていて、二転三転する犯人の展開に驚かされます。
『乱れからくり』泡坂 妻夫 〔1977〕
泡坂妻夫さんといえば、奇術や「ヨギ ガンジーシリーズ」などあっと驚く奇想天外な作品を多数残していますが、本作品はからくり玩具をトリックに絡めた初期の傑作ミステリーです。
社長一人の興信所に雇われた青年・俊夫と社長・舞子は、玩具会社ひまわり工房の部長馬周朋浩から妻の素行調査の依頼を受けます。しかし、不幸にも朋浩は不慮の事故で亡くなってしまいます。
その後、彼の身内に次々と不可解な死が訪れていきますが、一族の秘められた謎とねじ屋敷と呼ばれる秘密に二人は迫ります。
豊富なからくり玩具の知識と歴史が万歳で、それらがトリックに絡んでくるという泡坂さんならではの高度なミステリー作品です。
『殺しの双曲線』西村 京太郎〔1971〕
この小説のすごいところは、推理小説においてタブー的とみなされている「双生児を使った替玉トリック」であるということを冒頭であえて明らかにしてスタートしているところです。
さらにアガサ・クリスティの名作『そして誰もいなくなった』にもオマージュとして挑戦していて、都内でおこる連続強盗事件と雪山の山荘でおこる事件を交互に追っていくという先の見えない展開をスリリングに描いています。
著作本人が500冊を超える著書の中でもベスト5に入ると挙げる初期の本格ミステリーの傑作。
1960年代
『弁護側の証人』小泉喜美子〔1963〕
ヌードダンサーのミミイ・ローイと八島財閥の御曹司・杉彦は身分違いの恋をし、結婚しました。
そのことが発端となり遺産相続でもめる中、当主の杉彦の父・龍之介が何者かによって殺害されます。果たして真犯人は一体誰なのか。
そして、死刑判決を受けた被告人の生死をかけた逆転の一手となる「弁護側の証人」とは一体何者なのか。
昭和60年代に書かれた作品で、騙しのテクニックが駆使されたルーツ的作品と名高い必読の名作です。
『砂の器』松本 清張〔1961〕
何度もドラマ化、映画化された不朽の名作です。
ただのミステリー小説というだけでなく社会派ミステリーの先駆けともいえる作品で、当時の時代背景や差別など深いテーマを盛り込んだ作品。
1950年代
『りら荘事件(リラ荘殺人事件)』鮎川 哲也〔1959〕
かつて個人宅だった建物で、現在では芸術大学のレクリエーション施設となっている通称「りら荘」。
そこに集まった7人の学生たちの一人、尼リリスのトランプからスペードのカード13枚がなくなったことに気づき、やがて崖から転落死した男がみつかり、その死体のそばにスペードのAが落ちていました。
その後も次々と学生やそのまわりで殺人事件が起こり、死体のそばにはまたトランプがおかれています。
果たして、犯人の動機とトランプが置かれている目的とは。
学生たちみんなに動機はあり、容疑者が次々と変わっていくものの、みんなアリバイがあり、警察も犯人探しにお手上げのなか、素人探偵、星影龍三が見事事件を解き明かします。
殺害方法もいろいろな手法で、そのすべてに理由がある、本格ミステリの醍醐味が楽しめる傑作です。
『成吉思汗の秘密』高木 彬光〔1958〕
歴史好きもミステリー好きも唸らせるベッド・ディテクティヴ小説の傑作!
ベッド・ディテクティヴ(安楽椅子探偵)小説とは探偵が現場に行かず、他人の話や事件の調書などだけで推理するというもので、大抵は怪我などで病院のベッドの上にいて動けない状態だったりするもの。
この作品は、事件ではなく、源義経が実は死なずにモンゴルに渡ったのではないかという謎を推理するという面白い作品です。
他にも同シリーズに『邪馬台国の秘密』や『古代天皇の秘密』などもあり、どれも目から鱗が落ちる傑作。
1940年代
『獄門島』横溝 正史〔1947〕
初出は雑誌『宝石』に1947年(昭和22年)1月から1948年(昭和23年)10月と古い作品。
舞台は終戦から1年たった1946年の瀬戸内海に浮かぶ獄門島。
金田一耕助シリーズで、本家と分家の争いや松尾芭蕉の俳句になぞらえた見立て殺人など横溝正史ワールドの見本のような作品です。
1930年代
『孤島の鬼』江戸川 乱歩〔1930〕
江戸川乱歩の最高傑作とも言われる作品です。
一言では言い表せないぐらい複数のエピソードが折り重なった作品で、おどろおどろしく奇妙で、変態性がよく現れた乱歩ワールド全開の作品。
まとめ
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